Lyrics
カメラとカイト
光は冬の傾き
淡い赤に色づく樹よ
曲がり道の先にある
別の世界に焦がれている
カメラは僕の手のひら
カメラは僕の目
その時指を触れれば
あふれだす言葉の河
カマツカの葉が揺れている
カマツカの樹を見つめている
風は昼を過ぎて強く
木枯らしが鳥のように飛んでいく
紙と木の骨がはらみ
空を切るように駆け上がる
カイトは僕の指先
カイトは僕の羽
その時糸送れば
山並み越える鳥になる
青空と話しをする
青空が言葉をくれる
裸の樹のなまめかしさ
白と焦げ茶とのいさぎよさ
指の痛みは冬の歯車を
身体に刻む
2018.02
ちいさなクモ
ちいさなクモが机の上を歩いている
可愛い奴だ
白と黒のセーターを着てる
僕の手のひらから君の手の中へ
クレーンに乗って
ブランコに乗って
見えないパラシュートは
小さな箱を落とした
人をあざ笑って金を払う奴がいる
だからあの家の中は蔑みが溢れてる
そんなことにはお構い無しで
君が歩けば言葉がひとつ
歩いて止まって言葉がふたつ
見えないパラシュートは
小さな庭に降りた
The spider walks around
僕の描きかけの絵の上を
The spider walks around
ずっと忘れていた絵の上を
The spider walks around
君が歩けば言葉が歩く
The spider walks around
ちいさなクモが机の上を歩いている 可愛い奴だ
白と黒のセーターが似合う
僕の手のひらから君の手の中へ
ずっと忘れていた
あきらめていた
ケムクジャーラ
キッチンは一万畳
リビングは百万畳
ベッドルームは小さな巣穴です
山裾たなびく霧にそぼ濡れて
クランベリーマルベリー待っている
俺たち毛むくじゃら
服なんか着てない
胸の上だけちょっと白い
木の虚の中から甘い香りがする
蜂の巣ワッフル待っている
春には筍夏には木苺
秋には世界がレストラン
俺たち毛むくじゃら服なんか着てない
胸の上だけちょっと白い
ケムクジャーラ
ふわっふわーら
ケムクジャーラ
ふわっふわーら
2018.05
夏
犬が眠る
石が眠る
草が眠る
揺れながら眠る
大きな木の
影が眠る
蝉が支配するこの二週間
暑さに平伏す日々
ワンピース
サンダル
水撒きの女
小さな虹
夕立
光る雲
蝉が支配するこの二週間
暑さに平伏す日々
二度とはない
一度だけある
二度とはない
一度だけある
君の手
君の眼
仕草
2018.07
カヌー
暗い銀の水の底には
眠る魚
夜が明ける頃 船を出したらいいよ
水面分けて
葦原に滑り込みパドルを立てれば
雫 流れ星
空と水の境は無くなり
溶ける カヌー
2018.10
鹿男
春になると鹿男は
胸がざわざわと騒いで
瘤のような角が
頭の皮を破る
遠い遠いところへ
青い空の下へ
広い広いところへ
歩いて歩いて
角は大きな枝となり
しげる緑は空に届き
白い蝶が止まれば
君の時代が始まる
アスファルトを歩け
蹄を削って
笑い声の向こうから
光が降ってくる
ケルプの森は静かで
海の匂いも届かず
使い果たした角先が
ほろほろほろほろと崩れる
遠い遠いところで
擦りガラスの空の下で
広い広いところで
白い蝶は手の中から飛び立つ
2018.11